2009/08/03

国境が見えてくる──海フェスタよこはま

2009.7.25
【神奈川県】

 横浜港では現在「開国博Y150」が開かれており、関連イベントの「海フェスタよこはま」において、この日は南極観測船「しらせ」等の一般公開があったので、足を運びました(前週は帆船が集まったそうです)。
 一般公開という催しは広報活動の一環ですから、乗船員の方々がガイドしてくれます(コンパニオンはいません)。
 慣れない説明はたどたどしくもありますが、実直に接してくれるので、気が散ることもありません(?)。


 開国博Y150会場(Map)


 横浜港開港150周年を記念した博覧会には別会場もありますが、港付近では、おおよそこんな程度の敷地で開かれています(上写真の真ん中右の高い木の下に機械じかけの巨大クモが見えます)。
 150年というものがどんな区切りなのかは分かりませんが、江戸末期の開港からわずか150年で現在の姿となったことには、驚かざるを得ません。
 この先も、もちろん変化していくのでしょうが、周辺一帯が全部みなとみらい地区のようになってしまうのは、見たくないと思います。


 測量船 拓洋──海上保安部ふ頭(Map)

 この船は、海底の測量(深さや地形探査)、海底の地質調査(海底下の地質探査)、海洋調査(海水調査)等を行う、海上保安庁に所属する測量船になります。
 大学卒業後、最初に就いた仕事が海洋測量・調査の仕事だったので、当時は「こんな船が使えたら楽なのに」と思ったものでした。
 でも、この船は外洋向けに造られた船ですから、一度出航すると何ヶ月も大海原の中を、行ったり来たりすることになると思われます。
 ──海洋調査は、調査対象海域の全域にわたって計画された、行もしくは列状の測線沿いに船を走らせて、データを収集します。

 わたしが携わった沿岸の測量では、海が荒れれば休めますが、外洋でそんなことは言ってられないので、交代制で連日24時間続けられることでしょう。

 そう言えば、国連に提出する大陸棚延長申請(日本が主権を主張できる水域の拡張)のための調査任務があるわけで、こんなところでこびを売ってる場合じゃないはず……
 と思ったら、その提出期限は今年の5月だったそうです。だから骨休めができるんですね。
 大陸棚とは(細則が多々ありますが)基本的に、海に面した沿岸国の領海の基線から200カイリ(約370km)までの管轄権を認めるとした「国際連合海洋法条約(1994年発効)」によるもので、この場合は地形学上の分類ではありません。
 それは、よく耳にする「排他的経済水域」と表現され、その水域における開発等の権利をその国が有することになります。
 ──中国による東シナ海の油田開発は、両国が主張する排他的経済水域の境界付近で行われているため、問題視されています。

 これまで設定された水域の外側でも、条約にある条件をクリアすれば、管轄水域の拡張が可能であることが示されたので、そのデータ収集のために、この船は懸命に走り回ったことと思われます。
 日本が申請した拡張水域の面積は、国土の2倍の面積に当たるそうですから、しっかりやってもらいたいと思っていました。
 これもある意味、科学技術の社会(国家)貢献ですから、そんな仕事をやってみたかった気もします(今さらねぇ……)。

 右写真奧のオレンジ色のケーブルはストリーマーケーブルと言って、海底下の地層探査に使用されるエアガン(圧縮した空気を水中で瞬時に放出することで音波を発生させ、海底下からの反射音により地質の違いを調べる装置)の受信装置で、船尾から金魚のフンのように曳航するものです。
 この船のようにウインチがあればいいのですが、手で扱うと重いのよ!
 そんな懐かしさから撮って来ました。


 海上保安庁 横浜海上防災基地(Map)

 ここは、赤レンガパークに隣接しており、以前紹介した北朝鮮工作船展示館がある場所になります。
 普段は入ることの出来ない建物に、人々が足を運ぶのでつられて入ってみると、「海猿」(海難救助の潜水士)たちの訓練施設(プール)がいくつもあり、ここで訓練しているのか!? と食いつきました。
 ここでの訓練内容や、使命についてはTV・映画の「海猿」を観た方は理解されていると思いますが、そんな画面の中の光景が、目の前で公開訓練として繰り広げられていました。
 本当にあの職務は「使命感」以外の何ものでもないと、頭が下がる思いです……

 使用していないプールの水面には、訓練中に出たと思われるゴミが浮いてたりしましたが、ここはスイミングプールではないので、それも訓練の一部なのかと思ったりします。
 でもここに勤務する隊員たちは、東京湾が管轄ですから最も多忙でしょうけれど、中華街まで歩いて行けるのだから、職場環境としてはとても恵まれているように思われます。

 これから本格的な夏を迎えますので、海辺のレジャーに出かける際には、海の「もしも」は118番(海上保安庁)をお忘れなく。 


 南極観測船 しらせ──大桟橋(Map)

 一般的な名称として「南極観測船」と呼ばれていますが、運行管理をしている海上自衛隊では「砕氷艦」と呼ばれています。
 主に、南極地域観測隊の輸送に使用されますが、船自体は研究目的ではなく、南極への部隊派遣のために保有されているようです。
 極地での自衛隊活動のために造られた船ですから、さしずめ極地向け「サンダーバードX号」という性格でしょうか?(ネタ元自体が古くてスミマセン)
 ちなみに英語表記は「Icebreaker SHIRASE」です。


 これまで南極観測隊を輸送した船には、宗谷(1956~1965)、ふじ(1965~1983)、初代しらせ(1983~2008)がありますが、予算措置の遅れから2代目しらせは、2009年の5月に完成しました(船内を歩くとまだペンキのにおいがプンプンしてきます)。
 その空白期間となった2008年度は、オーストラリアの民間砕氷船をチャーターしたそうです。
 借りて事が済むのであれば、それでいい気もしますが、国際貢献や将来の南極開発において、砕氷船を持たない国に権利は与えられない、ことも考えられますから、やはり国家の事業として続けるべきと思われます。

 ですがこの先、温暖化が進んだ時代には、氷の溶け方やそのスピードの監視任務が重要になったりするかも知れません。
 当初の研究目的とは違うものの、それも国際貢献とされる時代を想像すると、ちょっと悲しい気がしますが、それも極地研究に違いありません……
 上写真は、雪上車を降ろすために使われるクレーンだそうで、そんな説明を聞いただけでも気持ちは南極に飛んでいくのですが、それだけでは汗は引きませんよね。

 引退した初代しらせの保存展示等の公募には、維持費用がかかる理由などから応募がなく、スクラップにされることが決定しましたが、鉄くず価格の下落から先送りされ、海上自衛隊横須賀基地内に係留されているそうです。
 現代では当然かも知れませんが、広告・宣伝用の予算がなくては、夢も伝えられない時代であると、実感してしまいます……


 この船にもさまざまな設備があるようですが、調整中なのか船内にはほとんど入ることも出来ず、ちょっとガッカリです。
 もう一つの関心事である砕氷用設備ですが、船首付近にある「融雪用散水装置」から水をまくことで、氷の上に積もった雪による抵抗を軽減するもの、だけのようです。

●砕氷のしくみ(配布パンフレットより)
1 連続砕氷
 氷厚約1.5mまでの氷は、強力な推進力で連続的に砕氷して前進します。
2 ラミング(チャージング)砕氷
 氷厚約1.5m以上の氷は、いったん艦を200〜300m後進させ、最大馬力で前進し、氷に乗り上げ、艦の自重で氷を砕きます。
 とあります。
 説明内容はよく理解できますが、何とも素っ気ない表現なので、何だか夢がしぼんでいく気がしました。
 この船にまつわる事柄には飾り立てるものはないが、任務はキッチリ遂行します、という意志の表れであると理解しましょう。
 部外者は勝手な想像から、夢やロマンを描いてしまうようです……


 護衛艦 きりしま──大桟橋(Map)

 順番待ちから、「しらせ」→「きりしま」と、見学のルートが決められていたので、そんな人の流れのままに見せてもらいました。

 護衛艦という響きには、主(あるじ)を守る役割という印象がありますが、空母(主)を持たない日本においては、主力の軍艦になるそうです(主は米軍になるのでしょう)。
 この艦(かん:軍艦に使う名称)は、2009年4月北朝鮮からのテポドン発射に備えて太平洋に展開した「イージス艦」になります。
 ──イージス艦とはイージスシステムを搭載した艦艇で、同時に多数の空中目標を捕捉し、これらと交戦できる装備を搭載している艦になります。

 となれば、米軍との連携のために当然、ミサイル迎撃用の「トマホークミサイル」を積んでいます。
 下写真が発射口になります。数えませんでしたが、この後部甲板だけでなく、前方の甲板にも同様の発射口がありました。
 一体、何発ミサイルを積んでいるんだ? という印象ですが、実際の迎撃の場面で失敗は許されないでしょうから、多いに越したことはないのかも知れません。
 何十発発射しようが、ひとつでも当たれば「perfect」と評価されるのでしょうから……


 これまで、米軍基地を巡り歩いて文句を並べてきたくせに、テポドンが発射されると聞いた途端に「打ち落としてやれ!」と、急変して軍隊を応援する自分がいます。
 また、排他的経済水域の件に触れた途端に、急にナショナリスト(愛国主義者)的な思考を始めたりします。
 アジア以外の海外の国からの「軍隊を持たぬ平和主義国家」という認識は、島国に住むわたしたちの「鈍感さ」ゆえに生まれた誤解ではないかと思ったりします。
 自分の意識の中で「平和主義」を訴えていながらも、明確な敵を認識した瞬間に、羊の皮を脱ぎ捨てて豹変する民族なのかも知れないことを、否定できない気がしました(防衛本能は生き物として当然の行為ですが……)。
 わたしたちは、他国を侵略したり脅威を与えるようなオオカミにはなりませんが、必要に迫られたら、いくら「鈍感な日本人」でも、自国を守るためには立ち上がると思われます。
 その時、どのように国民感情をコントロールすることが出来るのか? ということが、わたしたちの課題であると思われます。

 余談ですが、長期の遠洋航海等においては、乗員に曜日感覚を持たせるために、毎週金曜日には海軍カレーが出されるのだそうです。
 休みの前日を知らせる意味もあるそうですが、洋上では休める人も半分以下と思われます……

0 件のコメント: